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理髪師の冒険


古い神社

14-1

この神社は近所の山にひっそりとあった。
藪に囲まれた暗い入り口からは,その上に神社があるらしいことを想像させられるだけだった。

里山の森に神社の建物が散らばっている。
粗末な物置小屋,はなれ,鳥居,石像,囲い,古いもの,新しいもの,点々とある。
私は誰かと神社の敷地内を散策している。

森の中には,ふもとからは想像できなかった立派な本殿があった。
本殿から裏庭伝いに古風な建物が続いている。
小さな茶色いキツネを抱いている人が本殿からその中へと続く行列に並んでいた。
建物は山の傾斜に沿っており,奥の間へ進むほど上へと登った。
昔の都の建物を思わせるような和風の屋敷だった。
一番奥の間にはここの主と思われる男がいた。
見ると,自分の順番になった人がキツネを畳の上に座らせて,男に向き合わせた。
男がすごい気迫で「呪われている!」と言い,キツネが白い光を放った。
呪われたキツネから呪いを祓い,祝福を与えるようだ。
私たちは建物の外から開かれた障子の中を垣根越しに覗いていたので,
なんとなく気が引けて,結果を見届けないままそこを立ち去った。
ここはキツネを崇拝する神社のようだった。

はなれで売っていたお守りやおまじない用品は,
他の神社のものよりも秘法を連想させる,観光客に受けそうなデザインだった。
私たちは林の中に,掃除の行き届いた明るい石の階段を見つけたので,帰りはそこを下った。
すれ違った散策者たちの会話から,この山が今は知る人ぞ知る観光地となっていることがわかった。
薄暗くひっそりとしていた,子供には近寄る勇気の出なかった不気味な山が,
いつでも訪れることが出来る明るい散策路になっていた。
私は少し嬉しくなり,階段を降りる足取りも軽くなった。

ふもとで私はふと他の散策者たちが進むのとは別の方向を見た。
木陰の黄色い土に木の杭が5本立てられていて,一本に一頭ずつ紐で茶色いキツネが繋がれていた。
観光客向けにキツネがいるといった具合に見えた。
しかし,ここはキツネを崇拝する神社で,なによりキツネを大切にしているはずなのに,
こんな飼い方があるものだろうか。
キツネたちはみんな元気がなかった。
一頭は杭の横に座り込み,一頭はうずくまり,一頭は力なく横になっている。
手前の一本につながれているキツネはやや元気があり私に近づきたがっている。
残りの一本の杭には何もつながれていない。
この場所のキツネたちはあまり人にかまってもらえず放っておかれているように見えた。
整備された小道からやや離れているこの場所では観光客の視界にも入りにくい。
立ち止まった私に気付いた友人が後ろにいた。

階段を降りる時に感じたはずむ心に影がさした。
山の中で見た,木々に囲まれていた古い小屋のような建物,あれが本来の神社なのではないか。
この子たちは,神社が観光に目を向け始めた当初はここの目玉だったに違いない。
始めから飼われていたのか,それとも観光地化の為に飼われ始めたのかはわからない。
どちらにせよ,忘れられた飾り物程度の役割になってしまったようだ。

かつての主は健在だろうか。
もし健在なら,私たちはかつての主の認めを得なくても良いのだろうか。
売店にいた老人が頭に浮かんだ。
友人も同じことを考えているようだった。

子供の頃に想像力を働かせた,坂道の上にあったであろう神社,
坂の入り口には小さなキツネの石像が,この山にはキツネがいることを知らせていたが,
暗い森の中に入っていく勇気はなかった。
キツネはごくまれにふもとにも姿を現し,茂みの中を美しく歩き回っていた。
今のこの子たちに山を歩き回る体力があるだろうか。
三頭は歩けるだろう,横になっている一頭は今は無理かもしれない。
私は一番手前の元気が残っているキツネに近づいて,もう一度他のキツネたちを見回した。

私は恐れを抱くだけの子供ではなくなった。
私の横には今,友人がいる。

[完]


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