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理髪師の冒険



26-1

平面,正方形,
床,石,柱,段差,心,命。

時折ゆっくりと歩き,時折そっと腰かけた。

26-2

どこだろうか。
神殿のような場所で,佇む,あの姿は,誰だったのだろうか。
まさか,でも,その姿は,そうかもしれなかった。

しかし,背格好も,年齢も,見た目は全て,受け入れがたかった。
なぜだろう。

ちょっと違う。
何かが違う。
たぶん,違う。

この建物はそこかしこが崩れかけていて,
歩き回るのは危険そうに見えた。
でも,迎えの人物は,通れる道を熟知しているようで,薄暗い通路を進み,階段を登っていった。
建物の構造に気をとられているうちに距離があいていき,踊り場でとうとう見失ってしまってから,私は独りで物音のする方へ進んでいった。
崩れたテラスに突き当たると,待ちかねたというように迎えの人物が居た。
「さあさあ奥へ行きなさい」という風に促され,あの人が修理をしているから,と教えられた。
恐怖は消えた。
この,廃墟のようになってしまった建物で,あの人が,たった1人,奮闘しているというのか。
この場所を,かつての姿に,あの人が修繕した箇所を見つけて,涙が溢れた。
懐かしい景色が時折,石の隙間から,鮮やかに姿を現しては,私を言葉にし難い気持ちにした。

暴君だったのか,素晴らしい王だったのか,
仕えた者達は,残虐だったのか,穏やかだったのか,
魔法使いは,恐れられていたのか,親しまれていたのか,
修繕が終わった時に,明らかになるだろう。
修繕が終わった時に,私の役目は終わる。

26-3

衣が変わる。
姿が変わる。
心は・・・。

過去の衣,未来の衣,理想の衣,
かつてのあの人,神殿のあの人,城のあの人,様々な衣,
心は・・・。

存在しないと思っていた時間,
不確定な場所,
同時に存在していた。
順序は決まっていない。
長さも決まっていない。

過去の自分,いつかの自分,どこかの自分,
投影された像,選んだ像,妥協の像,理想の像,成り行きの像。

人々の攻撃と友情と義理と裏切りと,何でもない感情と,底知れぬ愛情。

[完]


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