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理髪師の冒険


廃墟

9-1

大きな花束。
灰色の砂の上に,ポツンとある。

町のスタジアム。

ここで何があったのか。
追体験してもらう。

廃墟のテーマパーク。

始めたのは1人の女性だった。
還暦を過ぎた,小さな女性。

優しい物腰で,訪問者を迎える。

娘さんがいたはずのその場所に,
毎日大きな花束を立てる。

娘が居た場所を恐れない。
彼女はそう言う。
何があったのか,わからないまま。

9-2

方角がわからくなった私は,
この町に迷いこみ,この町の人たちに助けられた。

スタジアムには大勢の人がいた。
当時の再現と,それを見るお客さんたちが混ざっていた。

図書コーナーに若い女性が居た。
彼女の背後の本棚には,裏への隙間があった。
ここを通って娘さんを外へ案内した者たちがいた。

私はその者たちの後を追った。
しかし,娘さんがどうなったのかわからなかった。

娘さんは,この者たちを目視できたようだ。

このことをあの女性に伝えるべきかどうか。
でも,それがあの女性の救いになるだろうか。

私はその者たちに問うた,彼女を助けられなかったのか。
その者たちは静かにゆっくりと顔を左へ右へ繰り返し向けた。

たくましい男性が私に言った。
「あのおばあさんは毎朝毎夕,娘さんに会いに来てる。
 おばあさんは娘さんを受け入れている。」

丘の上で標識を見つけた。
まだ青い空の下で,舗装路がぎらぎらと輝いていた。
すんだ風が吹き渡り,もうすぐ夕方になる。

[完]


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